一足早く始まったアメリカにおける
音楽配信の実態は?



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インターネットの環境自体が早くから整備され、音楽配信の推進に、関連団体やレコード会社、そして、アーティスト自身も積極的な姿勢で臨んでいるアメリカでは、さまざまな試みが行なわれている。また、権利問題とともに、配信ソフトの技術開発へも積極的な取り組みが見られる。その実態を見てみよう。


TEXT 鷲見和男


アメリカの音楽配信状況

 インターネット先進国アメリカでは、昨年のローリング・ストーンズ(Virgin America)によるライブ生中継以来、大物アーティストによる実験が相次いでいる。ニューシングルを立て続けにインターネット先行発表したり、先日初のライブ生中継を果たしたデヴィッド・ボウイ(Virgin America/Ryko disc)や、やはりニューシングルのインターネット先行発表を行なったデュラン・デュラン(Capitol)が最近話題となっているが、メジャー・レーベルのインターネット・イベントでは何故かイギリスのアーティストが目立っている事も興味深い。

 勿論、先日発表したCDアルバムを最後に、今後の新曲発表は全てネットワークを通じて行なうと宣言して気を吐いているトッド・ラングレンを始め、アメリカではレコード会社以上にアーティスト自身が活発なのは言う迄もない。

 一方、インターネット放送局は既に乱立状態となっており、Microsoft系のAudio Netでは全米各地のFM局の番組が聴けるし、日本の有線放送に近いサービスを行なっているThe DJでは50ものチャンネルでメジャーからインディーズ迄何でも聴ける。ハウスやヒップホップ等ニューヨークのヒットが24時間生で聴けるWBLSは筆者のお薦め。

 ところが、インターネット放送局を含めたストリーム配信は、原盤制作者(レコード会社)への楽曲使用料規定が決まっていない状態のまま行なわれている。いずれは規定が設けられるとの事だが、2次使用料云々よりもプロモーション効果の可能性を優先する辺りは、エンタテインメント業界でもインターネットが当り前のアメリカならではだ。

 さて、無料配信に関する話題には事欠かないが、有料配信となるとまだ少ない。まず、先月NASDAQ上場を果たしたN2KがMusic Boulevardで今夏よりいきなりダウンロード販売を開始した。アーティストとの直接契約によるコンテンツのみで余り変化が見られないが、先行しているだけに今後も要注目。

 そして、メジャーの動きとして注目したいのがタイアップである。現在SONYの一部CDがエンハンスド化(CD-Extra)されており、中のデータから提携プロバイダーであるEarthlinkへとリンクが張られ、そこに用意されている特別なコンテンツを視聴する為にプロバイダー加入契約が申し込まれると、SONYにマージンが払われるという仕組みだ。EMI-CAPITOLでは、Real Player Plus(製品版)を購入すると週替わりで同レーベルの様々な曲が視聴出来るキャンペーンを実施中だ。

 双方共、まずはユーザー教育からスタートし、将来の利用者拡大が狙いだろう。また、公式発表はされていないが、歴史的な名盤を膨大に所有している某老舗レーベルが旧譜を中心としたコンテンツを、また、一時某日本企業が所有していた事も有る某レーベルでは早ければ年内にシングル曲の新たな流通手段として、それぞれダウンロード販売を開始する予定だ。

 アメリカにはCDショップまでの距離や経済的な理由で欲しい音楽ソフトを買えない人や常に自分に合う音楽を積極的に探す人が多く存在する為、インターネットでの音楽流通に対する期待が非常に大きい。そして、アーティストや業界もそれに応えようとしているのが強く感じられる。彼らはアクリル樹脂の円盤を売り続ける事だけが音楽ビジネスではない事に気付いたのだろう。



音楽コンテンツ配信ソフト事情

 アメリカでの音楽配信事情を語る上で、権利問題以外に重要なのが配信用ソフトの技術開発である。日本の高圧縮率/高音質ソフトTwinVQ、そのTwinVQとドイツの認証技術が合体しイギリス他で実用化されているCercure ATM等、世界中から多種のソフトが発表されているが、現状ではMicrosoft陣営のReal Playerが音楽と動画の両方で配信用ソフトのデファクト・スタンダードとなっている。これ程までに普及した理由は、発表当初よりエンコーダー(ファイル圧縮/変換ソフト)を無料配布し、サーバー・ライセンスも規模に合わせて用意されていた点だ。今夏からは20ストリーム(同時配信数が20)迄の小規模サーバー・ライセンスを無料とし、更なる普及を狙っている。

 音楽ではないが、Real Player5.0の新機能Real FlashはMacromedia Flashで制作したアニメが20Kbpsのスピードで受信可能で話題を呼んでいる。MicrosoftはVDO Live等の配信ソフトも次々と傘下に納めているが単なる囲い込みでは無く、Real Video/Audioはインターネット放送用、VDO Liveはインターネット会議(電話)用と、実は各システムの本来の用途は異なっている。

 そして今月、音楽の有料配信に特化されたシステムであるLiquid AudioがMicrosoft陣営に加わった。Liquid Audioはスタジオでのディジタル録音や大規模なPAといった、音楽制作の最先端技術を熟知した面々が中心となり、ネットワークでの音楽ソフト流通実用化に的を絞って開発されている。

 しかし、楽曲データのダウンロード販売に関しては、ウォーターマーク(電子すかし)や暗号化による不正コピー抑止こそ確立されているものの、圧縮率の高いTwinVQでさえファイル容量が5分で5MB程度となる為、サービスを快適に利用出来るクライアント環境は非常に限られている。Liquid Audioでは、この問題のフォローに関して過渡的な流通形態であるインターネット通販の併用を採用しており、プレイヤーから今聴いている曲のCDを購入する画面に直接リンクを張る事が可能だ。

 来年には日本でも1.5〜6メガbpsもの超高速ダウンロードが可能となる予定だが、アメリカでは既に衛星データ配信により400kbpsのダウンロードが実現している。ネットワーク・コンテンツの本格的普及は予想より早いかも知れない。



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