緊急提言!

こうすれば日本の音楽配信が可能になる



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日本のインターネット音楽配信の問題点は、いろいろと見えてきた。では、いったいどうすればいいのだろう。問題は顕著であるのに解決できないという、この窮めて日本的な状況はなんとかならないものなのか。音楽著作権ビジネスに詳しく、管理業務なども手がける論客、安藤和宏が急務の課題を提言する。


TEXT 安藤和宏



●JASRACの一社独占を可能にしているのは、仲介業務法という悪法のせい


「なぜネットから音楽が聞こえてこないのだろう?」
 ネット上の著作権や著作隣接権が整備されていないことを理由にしてこの問題を議論する人がいますが、私はあまり賛成できません。日本ではすでにインターネットに対応した法律改正は終わっていますし(1998.1.1施行)、WIPO著作権条約WIPO実演・レコード条約もすでに制定されています(発効はまだですが)。ではこの問題の本質はどこにあるのでしょうか。それは権利の運用システムにあると考えるのです。

 日本には仲介業務法という悪しき法律が存在しています。この法律は昭和14年の制定以来、60年近くも抜本的な改正をされずに、今日まで著作権の仲介業務を規制する法律として存続しています。仲介業務法により、仲介業務団体の独占性が確保され、新規に仲介業務へ参入することが実質的に不可能な状態になっているのはご存知の通りです。有名なJASRACもこの法律のおかげで一社独占の地位を謳歌できるのです。

 仲介業務団体の独占性による弊害については、数多くの指摘がありますが、その最も大きな問題点は一元管理だと柔軟な対応ができないとい、ものです。自由競争はサービスの向上や運営の合理化をもたらします。反対に、独占的地位は必然的にインセンティブの低下をもたらし、業務の非効率化、硬直化に帰結していきます。アメリカの著作権団体と比較されるポイントはまさに弾力性、柔軟性のなさにあります。JASRACはあまりにも新しいメディアに対して慎重になりすぎて、利用者のビジネスチャンスをかなり奪っているのではないでしょうか。一元管理のメリットとして一括許諾が挙げられていますが、権利所在情報のデータベース化によってかなりフォローできると考えます。競争原理の導入によって複数の著作権団体が誕生した場合に生じる数々のメリット(インセンティブの付与、リーズナブルな料金体系、サービスの向上、システムの早期構築など)の方がはるかに大きいのです。


●文化庁は著作権の集中管理がお好き!?


 現在、著作権審議会の小委員において、仲介業務法の見直しを含めた集中管理制度の在り方について、検討を行なっています。利用者団体、権利者団体からヒアリングを行ない、それらを参考にして新しい時代に対応する集中管理制度の構築へ向けての指針を出すそうです。ところが業界関係者のヒアリングを行なっている最中に、管轄官庁の文化庁著作権課長が日経産業新聞のインタビュー(1997.10.06)で“米国のように複数管理団体が一つの分野に並立する方がよいのでは”という質問に対し、「著作権については一括して権利処理できるメリットは少なくなく、音楽や脚本のような集中管理団体が他の著作物でも存在すれば権利処理が簡単で利用がしやすくなるという声も強い。集中管理の良さを崩さなくても、柔軟に対応することは十分に可能と思う」と答えました。著作権審議会で仲介業務法について議論をしている最中に、著作権課の課長がこのような発言をするとは驚きです。また「見直し=縮小、廃止」という固定観念に縛られていた私にとっては衝撃でした。「見直し=適用範囲の拡大」という図式も文化庁にはあることを知っておく必要があります。

 社団法人日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会やマルチメディア・タイトル制作者連盟などの利用者団体やいくつかの権利者団体は、仲介業務法の廃止や規制緩和を強く要望しています。著作権審議会や文化庁はこれらの意見に真摯に耳を傾けるべきです。権利者と使用者は相互依存の関係にあることをもっと留意すべきなのです。


●レコード会社は原盤権を保有している限りは生き残れるのに……


 仲介業務法の話はそれくらいにして、もう一つ大事なお話をしましょう。それはレコード会社のスタンスです。レコード会社は原盤(マスターテープ)の権利を保有しており、それを自由に複製したり、頒布したりすることができます。1998年1月1日からはレコード製作者に送信可能化権という権利が付与され、インターネットでのレコード演奏(送信)におけるレコード製作者の権利が確保されました。

さてレコード音源をアップロードしたい場合、楽曲の権利をクリアしても、原盤権をクリアしなければなりません。ここでレコード会社に許諾を求めることになるのですが、ご存知の通り、レコード会社は音源の許諾にはかなり消極的です。坂本龍一さんのインタビューにある通り、レコード会社、工場、配送業者、レコード店などがビジネスとして介入できなくなるからです。ただ、レコード会社は原盤権を保有している限りは生き残れます。しかし、その方法や方向性が彼らにはまだ見えないだけなのです。だからレコード会社はインターネットによる音楽配信に対して、慎重な態度を取っているのだと思います。自分たちで巨大マーケットを構築するのか、積極的に許諾し、マーケットの構築を第三者に委ねるのか、いろいろ模索しているように思えるのです。しかし時間は刻々と過ぎていきます。新しいメディアに慎重すぎる態度は、自らもビジネスチャンスを逃すことになりかねません。最近のレコード会社とアーティストとの契約には、“マルチメディア”や“インターネット”という言葉が羅列されています。レコード会社による権利の囲い込みはすでに始まっているのです。将来を見据えて、権利の確保に余念がないことを考えると、レコード会社のインターネットに対する消極的な態度には少なからず矛盾を感じてしまいます。


●サンプリングOKもサンプリングNOも著作権利者の自由裁量、という柔軟なシステムを!


では今後どのような方向、ビジョンが考えられるかというテーマでこの話をまとめたいと思います。 一言で言うと、「柔軟な管理システムの早期構築」、これに尽きると思います。これだけではわかりにくいですから、例を挙げてみましょう。

 マルチメディア(この言葉も古くなりました)時代の著作権を考える時に、人格権の問題がクローズアップされました。その際にコンテンツ毎にフラグをつける、そして「改変OK」、「改変NO」、「ケースにより改変OK」などというフラグを見て、利用者はコンテンツの使用を検討するというシステムが考えられました。データベースの構築により、フラグをつけることなどいとも簡単です。これをネット上のコンテンツにも応用できないかと思っています。この楽曲はサンプリングやコピーをしてもOK、これは絶対にNOといったフラグをつける。要するに権利者の要望に応じた楽曲単位の管理をするのです。もちろん、中には著作権を放棄してもいいという楽曲が出てくるでしょう。こういった権利者の要望に柔軟に応えられるシステムこそが今、最も求められているものなのです。



●コピーマートというアイデアもあるよ


 柔軟の管理システムというと、京都大学名誉教授の北川善太郎氏が提唱している「コピーマート構想」が頭に浮かびます。コピーマートでは著作権マーケットとして、著作者名、権利者名、著作物の種類等の著作物に関するデータ、著作物に関する著作権のデータ、コピーの販売または許諾条件、支払方法、料金、利用データなど、さまざまな情報が登録されます。利用者はこれを見て、使用の是非や可能性を検討するのです。但し、コピーマートでも仲介業務法の規制からは逃れることはできません。仲介業務法の下では、自由に使用料を決めることはできないので(文化庁長官の認可が必要です)、コピーマートが目的とする自由な取引市場の確立は望めません。そもそもJASRAC以外の団体に文化庁長官が仲介業務の許可を与えるとは到底思えませんが。

●一刻も早くプロフェッショナルな著作権管理システムの確立を!


 私はネット上の著作権管理システムの構築は難しいものだとは思っていません。ただ、プロフェッショナルな仕事だと思います。コンピュータやプログラムに精通した人々が集まって、権利者と一緒になって高度で柔軟なシステムを早急に構築しなければなりません。どちらか一方だけでは不完全なものになるでしょう。また利用者の利便性も考慮しなければなりません。24時間オープンなデータベース・サービスも必要でしょう。今までのビジネスの立ち遅れを取り戻すことは容易ではありませんが、その責任を関係者はとってくれないのです。まさに今始めないと取り返しのつかない事態になることは誰の目にも明らかです。

 仲介業務法の廃止、複数の仲介業務団体の設立、柔軟な管理システムの早期構築、この3つがインターネット時代の音楽著作権を考える場合のキーワードであり、急務の課題だと強く認識しています。



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