intro:アーティストの楽曲は誰の管理下に?



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普段、私たちリスナーが音楽を聴くときに、もっとも接することの多いのは、ラジオやテレビのような放送メディア、あるいはCDのようなパッケージ・メディアだ。こういったメディアを通じて、アーティストが作った楽曲はリスナーもとへと流通していく。そして、そのときに、問題になるのが、楽曲の著作権だ。その管理・運営は、いまインターネットで音楽を配信しようとする場合にも大きな問題となっている。著作権利者、使用者、そして管理者が存在する、音楽著作権の仕組みとはどうなっているのだろう。音楽配信の問題を考えるにあたって、まずは、日本における管理・運営の構造を見てみよう。


TEXT 原 雅明


 日本の音楽著作権の管理・運営において重要な決定権を担うのは、著作権利者たるアーティストではなく、ましてや著作権料を納めるレコード会社や放送局でもない。それは、日本著作権協会(JASRAC)、日本レコード協会、そして音楽制作者連盟である。リスナーにはよく見えない、これら3団体を中心にした、管理・運営構造の流れはいったいどうなっているのだろうか?

著作権を管理するJASRACとは?

 アーティストが作った楽曲は、例えばラジオで流れた場合に、その放送利用に対してラジオ局から一定の著作権使用料がアーティストの側に還元される。しかし、その使用料の微収や分配管理をアーティスト側がいちいちやることは、非常に面倒な業務となる。そこで、著作権管理団体が登場する。日本では、日本音楽著作権協会 =Japanese Society for Rights of Authors, Composers and Publishers(JASRAC)が唯一の団体として、その業務をいわば代行しているわけだ。ちなみにJASRACは日本で使用されている楽曲の9割以上を管理しているという。

 JASRACは、著作権使用者(TV/ラジオ局、有線放送などの公衆放送から、カラオケなどの演奏権使用者まで含まれる)に使用許諾を与え、所定の著作権料を微収する。そしてそれを著作権利者であるアーティストあるいはアーティストが契約している音楽出版社に分配する。これが大まかな流れだが、ここに、さまざまな音楽関連団体、原盤制作プロダクション、レコード会社などが関連してくる。

 JASRACが、なぜ唯一の団体なのか。それは、ドイツのウィルネルム・プラーゲ博士が日本に持ち込んだ、いわゆる『プラーゲ旋風』に端を発している。プラーゲは、自ら「外国の著作権者の代理人だ」として、日本の放送局などに、高額な著作権使用料の請求をしたことから、困り果てた日本政府が、1939年に、「仲介業務法」を制定し、音楽の著作権に関する徴集/分配業務を一括管理する団体を設立して、そこに仲介業務のすべての許可を与えることにした。この唯一の認可団体こそがいまのJASRACだ。外圧によって制定された仲介業務法が、いまだに日本の著作権管理の根幹をなしていることは、現在もさまざまな問題を生んでいる。

 インターネット配信での著作権使用について、JASRACでは世界に先駆けて確立された送信可能化(アップロード)権を含む著作権法改正を受けて、使用許諾を実施している。いち早くインターネット配信への対応を始めているように見えるが、JASRACの徴集/分配業務について不透明感を訴える声が権利者側と使用者側の双方から噴出している。JASRACの所轄官庁である文化庁共々、ネットワーク時代に見合った、意味ある柔軟な対応が求められているのだ。



最大の送信可能化権利者団体となる日本レコード協会

 来年(1998年)1月に、インターネットに対応した法律改正といえる、新著作権法の「送信可能化権」が施行される。これはアップロード権とも言われ、実演家(アーティスト)と原盤製作者(殆どの場合レコード会社)が、インターネットでの音楽配信に関して楽曲の使用許諾を与えることができるというものだ。

 ここで、大手レコード会社29社が加盟しており、新著作権法施行となる来年から最大の送信可能化権利者団体となるのが日本レコード協会 =Recording Industry Association of Japanだ。

 ところが、同協会には、レコード会社に対して、送信可能化権による許諾を自粛規制するように求める動きがある。従来の流通経路を保護しなければならない立場にあり、流通業者の反感を買ってまで、まだまだビジネス規模の小さいインターネット流通を推進する理由はないなどの判断が働いているようだ。また、100%原盤権を所有しているアーティストやプロダクションでも、作品を発表/販売しているレコード会社とのトラブルは避けたい為、現在インターネット配信を実践しているのは同協会に加盟していないインディーズ・レーベル等ほんの僅かでしかない。しかし、同協会の下でインターネット配信も有効と考えるアーティストはもちろん大勢いる。



業界の意思決定機関、音楽制作者連盟

 著作権利者の代表団体として、制作プロダクション、レコード会社、音楽出版社など、音楽業界のほとんどの法人が会員となり、事実上、業界意志決定機関として機能しているのが、音楽制作者連盟=The Federation of Music Producers Japanである。

 音楽制作者連盟は、アーティストのキャラクター(肖像権)不正使用、レコード・レンタル使用料徴集(貸与権)、アーティスト/レコード会社/放送局等が楽曲普及(ヒット)に貢献している事に対する報酬(著作隣接権)等の問題について、ポップス/ニューミュージック系のアーティスト達が所属するプロダクションを代表して、検証や不正使用者への意見書提出を行う団体である。

 権利者の代表である同団体が認める、使用の許可/不許可をきちんと管理出来る運用システムの整備は、残念ながらまだ整っていない。



 このように、アーティストからリスナーに音楽が届くまでには、いくつかの音楽団体が存在し、インターネットにおける音楽配信に対しても重要な意思決定機関として働いている。そして、その決定が、アーティスト、レコード会社、制作プロダクション、出版社などの判断に大きな影響を与えている。

 インターネットは音楽流通の新しい可能性として存在しているはずなのに、なぜ、日本のインターネットでは、本格的な音楽データ配信がいまだできないのだろうか。リスナーとしての素朴な疑問からスタートしたこの特集では、これからその理由を掘り下げて考えていきたいと思う。

(資料提供・図版作成協力 鷲見和男)


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